【ゲンジボタル】卵までも光る!?化学変化が引き起こす哀愁深き「冷光(れいこう)」



うまでもなく「蛍(ホタル)」は一般的に光る昆虫である。

 

ホタルの仲間の中でも、日本で最も代表的な種は固有種『ゲンジボタル』であろう。

 

その尾部の発光は、なんとも言えない美しい蛍光色で、

 

この「色合い」「じわぁっと光り、消えていくリズム」は、

 

決して人工物では表現し難いものであると筆者は思う。

 

まさに自然が生み出した「夏の芸術」と言えよう。

 

さて、そんなホタルたちであるが、

 

『卵の時も幼虫や蛹(さなぎ)の状態でも光る』

 

という事実はご存知であろうか?

 

身篭ったメスホタルは川岸のコケの上などに産卵する。

 

卵の中で幼虫が形作られると(生物学上、発生という)、幼虫が早速光り出すことで蛍光色の卵を観察できるというわけだ。

 

孵化した幼虫は一目散に川の中へと入り、カワニナ(巻貝の一種)などの餌を食べながら、時に発光しながら成長していく。

 

大きくなった幼虫は陸に上がると、土にもぐって蛹になり、これが成虫に発生していく中でも発光することがある。

 

今度はホタルの光を科学的視点で見てみよう。

 

ホタルの発光は、簡単に表すと次のような式となる。

 

発光物質ルシフェリン + ATP + ルシフェラーゼなど → 光エネルギー

 

※ルシフェラーゼ…ルシフェリンを機能させる酵素

※ATP…アデノシン三リン酸という物質で生命に関するエネルギーの本体

 

つまり、発光物質である「ルシフェリン」「ルシフェラーゼ」などの物質と「ATP(アデノシン三リン酸)」が働き、ホタルの発光が起こるのだ。

 

通常、『発光』という現象は、その「光エネルギー」の一部が「熱エネルギー」に変換されてしまうので、光には『発熱』が付き物である。

 

(例)長時間点いている蛍光灯に手で触れるととても熱い

 

しかし、ホタルの発光は非常にエネルギー効率が良いために、熱はほぼ発生しないのでその光は、

 

『冷光(れいこう)』

 

と呼ばれる。

 

 

夏の風物詩の代表格「ホタルの光」。

 

筆者も幼少期には、夏の夜、時々両親にホタルを見に連れて行ってもらったものだが、

 

「そろそろ帰ろうか。」と言われても、黙って長時間飽きもせずホタルの舞いを見ていた。

 

子供ながらに、ある種の『哀愁』『癒し』を感じていたのかもしれない。

 

「冷光(冷たい光)」と呼ばれる彼らの発光に、

 

反対の『温かみ』を感じるのは筆者だけなのであろうか。

 

分類
動物界 Animalia
節足動物門 Arthropoda
昆虫綱 Insecta
コウチュウ目(鞘翅目) Coleoptera
亜目 カブトムシ亜目(多食亜目) Polyphaga
上科 ホタル上科 Cantharoidea
ホタル科 Lampyridae
ゲンジボタル属 Luciola
ゲンジボタル L. cruciata
学名

Luciola cruciata

(Motschulsky, 1854)

英名

Japanese firefly