日本の国技『相撲(すもう)』。
相撲取り(力士)にとっては、『足腰』は命だ。
無論、”厳しい土俵上で戦い抜く”には、他にも必要となるステータスが数多くあるのだろうが、あのような巨漢を支え、踏ん張る「足腰の丈夫さ」は力士として最も重要なファクターの1つであろう。
ところで、話はガラッと変わるが、島根県東北部に広がる『宍道湖(しんじこ)』という大きな汽水湖(淡水と海水が混じる湖)を皆さんはご存知であろうか。
日本国内では、7番目に面積が大きい湖(79.25km²)。
その宍道湖には1つの“興味深い合言葉”が伝わっている。
それが、
『スモウアシコシ』
である。
実はこの『スモウアシコシ』とは、宍道湖で獲れる魚介類の代表7種のそれぞれの頭文字を並べたもの。
要は“語呂合わせ”なのだ。
その7つの魚介類は、
「宍道湖七珍(しんじこしっちん)」
と呼ばれている。
では今回は、「七珍」に該当するものたちの正体、そしてその調理法を中心に見ていこう。
其の一. ス=スズキ
「スズキ」は、お馴染みの出世魚(体長によって呼び名が変わる魚)。
スズキ目・スズキ亜目・スズキ科に属する。
海~河川に分布。
釣り人の間では「シーバス」という名で親しまれ、最大で1m程にも達する。
実際、宍道湖周辺ではスズキをターゲットとしたルアーフィッシングが盛んだ。
筆者おすすめのスズキの調理法は、『ムニエル』だ。
3枚におろした皮付きの身に小麦粉を軽く付け、オリーブオイル(バターも良し)で焼き、お好みの香草(塩+粗挽き黒コショウだけでも美味)で味付けする。
クセのない淡白な白身がとても美味しい。
其の二. モ=モロゲエビ
十脚目(エビ目)クルマエビ科に分類されるエビの一種。
「モロゲエビ」というのは宍道湖周辺の地方名で、標準和名は『ヨシエビ』という。
宍道湖において”エビ”と言えば「テナガエビ」も有名で、6月~8月頃、夜中に地元民はそれの”捕獲”を目的として、こぞって出掛ける。
その時、彼らが手に持っているのは”懐中電灯”と”エビ取り用のタモ”だ。
この時期の夜、宍道湖のテナガエビ達は大量に岸際に寄っているのだ。
この”エビ取り”は単純に見えて意外と難しく、ゲーム感覚が味わえるので楽しい。
この時、大量のテナガエビに”数匹のモロゲエビ(ヨシエビ)”が交じることがある。
どちらのエビも軽く泥抜き、酒締め(酔わせて動きを止める)後、キッチンペーパーで水気を取り、『素揚げ』にすると大変美味。
味付けは少量の塩のみでOK。
冷たいビールにとてもよく合う。
其の三. ウ=ウナギ
皆さんご存知の「ウナギ(二ホンウナギ)」。
ウナギ科ウナギ属に属する高級魚。
宍道湖周辺には、老舗の”ウナギ料理屋”が点在している。
時間をかけて、何度もタレを重ね塗りながら焼いた『蒲焼き(かばやき)』は香ばしく、旨味があり、絶品である。
薬味の山椒(さんしょう)もお忘れなく。
ウナギをさばく際、素人においては、目打ちで頭を固定して、”専用のカッターナイフ”を使うと便利が良い。
其の四. ア=アマサギ
「アマサギ」も地方の呼び名。
『ワカサギ』が一般的な呼び方であろう。
キュウリウオ目キュウリウオ科の魚類で、成魚の最大全長は15cm程。
おすすめはベタだが、『天ぷら』だ。
小さい魚なので腹を裂いて内臓を取り出す必要はなく、下処理としては、腹部を指で軽く押し内容物を絞り出す程度で問題ないだろう。
ウロコも気になる人は丁寧に取っても良いが、粗塩でざっと擦るくらいで簡単に済ませても良い。
あとは、市販の天ぷら粉を薄く付けて揚げるだけ。
香りも良く、旨い。
其の五. シ=シラウオ
「シラウオ」は、キュウリウオ目シラウオ科に分類される半透明の細長い小魚である。
女性の細く白い指を「シラウオのような指」と例えるのはあまりにも有名。
ダシ汁、醤油、みりんなどで火を通し、そこに溶き卵を回しかけた、シラウオの『卵とじ』は美味。
丼にしても良い。
其の六. コ=コイ
広島県民ならばこのワードを聞くだけでテンションが上がる(諸説あり)と言われる「コイ」。
誰もが知る、コイ目コイ科に分類される魚。
コイは捨てるところがほとんど無いと言われる程、ほぼ全ての部位を食用にできる。
「鯉こく(輪切りにした鯉を水・赤味噌・日本酒などで煮込んだ汁物)」等が有名であるが、『鯉の洗い』を忘れてはならない。
『鯉の洗い』という調理には、実は興味深い”科学”が隠されているのだ。
こちらについては、当サイトの別ページにて特集しているので、興味ある方はそちらも併せて読んでいただけると幸いである。
其の七. シ=シジミ
宍道湖で最も有名な魚介類と言えば、「シジミ」であろう。
二枚貝綱異歯亜綱シジミ科に分類される二枚貝の総称で、宍道湖では『ヤマトシジミ』が獲れる。
漁獲高は宍道湖が日本一。
これを使った『味噌汁』は身体に染み渡る。
煮立たせる際に出る白濁のダシは、香り良し・味良し。
貝の身も美味。
余計な具は入れず、少量の刻みネギを散らすくらいでシンプルに。
特に酒を飲んだ後、締めにいただくそれは何事にも代え難い”安心感”を与えてくれる。
以上、『スモウアシコシ』で覚えられる「宍道湖七珍」の紹介であったが、いかがだっただろうか。
初めて「七珍」を耳にした方も、ユーモア溢れるこの“合言葉(語呂合わせ)”で是非とも暗唱していただきたく思う。
しかしながら、この7つの宍道湖の生物たちの中には、漁獲量が近年“減少の一途”を辿っているものも多いという。
「七珍」が、いつの間にか「六珍」「五珍」…という風に減っていってしまわないことを切に願う。
そんな思いも込めて、さあ諸君も”合言葉”を声に出して言ってみよう!
『相撲足腰』!