『死滅回遊魚』という言葉を諸君はご存知であろうか。
そもそも「回遊魚」とは、“環境の変化(水温やエサ)”や“個体の成長”、または繁殖・産卵などの“目的”に応じて川や海を泳いで移動していく魚類を指す。
この「回遊魚」には、クジラ、マグロ、スズキ、ウナギなどが含まれる。
基本的に高い遊泳力を持つものが多い。
一方、『死滅回遊魚』とは、南の温かい水域(熱帯、亜熱帯)で暮らす 本来 “回遊性を持たない魚”が、
黒潮(いわゆる”日本海流”やその分流である”対馬海流”)
により、北の海域へ流されてしまうことで生じる、いわば、
不可抗力な回遊を行う魚類
である。
それらの特徴としては、“遊泳力が低い” = “海流に逆らえない”ということが挙げられる。
たとえ、泳ぐ力に自信がある者であろうとも、”体が小さい子どもの頃”ならば強い海流には逆らい難いということは容易に想像がつくであろう。
本来の水域を離れ、北方の海域にたどり着いてしまった彼らは、水温が安定している間は生きられるのだが、水温が低下してしまう冬場に生き延びることはまず難しい。
かと言って、回遊性を持ち合わせていないのだから、故郷である南の海域へ戻ることはできない。
したがって、
ただ死を待つしかない、
死という運命(さだめ)から逃れられない魚たち
というわけだ。
これが『死滅回遊魚』という名の由来だ。
「なんと哀しき魚たちであろうか!」と共感いただけるに違いない。
以下が『死滅回遊魚』の一例である。
・チョウチョウウオ
・ハリセンボン
・スズメダイ
・メッキ
(ロウニンアジやヒラアジの幼魚の総称。ルアー釣りの対象魚として人気が高く、ロウニンアジは大きくなると体長1m以上にもなるため、通称GT【Giant trevally;ジャイアント・トレヴァリー】と呼ばれる。)
・クマノミ
・ハコフグ
このような一見“無駄死に”としか思えない『死滅回遊魚』には、そうとも言い切れないポイントが存在する。
それは、
″死滅という運命を回避できるかもしれない”
という可能性だ。
万が一、なんらかの条件が重なり、
回遊先で越冬し、生き延びられた個体らが出てくれば!
そこでもし繁殖できたなら!
その種の生息域を拡大できたと言えるはずだ。
実は、これは仮定のお話ではなく、なんと既にこの地球上で起こっている。
例えば、”温泉地に近い水域”では季節問わず安定した温かい環境で生き延びているものがいる。
また、”地球温暖化”の影響で、回遊先でも水温の低下が小さくなっている所では死なずに営んでいるものもいるのだ。
ともすれば、もはや『死滅回遊』は、”不可抗力な回遊”ではなく、“自ら望んで流れに身を任せている”のでは無いだろうか!
『死滅回遊魚』と言えども、無論、流されずその場で“通常通りの生涯”を送るものもいる。
ならば、群れを成して同様の行動をする(すなわち群れごとなんらかの危険に襲われるかもしれない)従来の回遊魚よりも、
元々の水域に大部分の個体を“保険”として残し、数%の“チャレンジャー”を未知の水域に送り出し、可能性を拡げる『死滅回遊魚』の方が合理的ではなかろうか!
悲劇の運命により、一般的にあわれみの目を向けられがちな『死滅回遊魚』達であるが、
大袈裟に言えば、彼らこそ、
“本当の意味での回遊魚”
と言えるのではないだろうか!
地球地表の約7割が海。
存在する海水の総量は、13億5000万立方km。
我々人間が、まだまだ未知に溢れている海に“浪漫(ロマン)”を見出すのと同様に、
彼ら『死滅回遊魚』も、海の“無限なる可能性”を求めて泳ぎ続けているのかもしれない。